2017/09/09 04:02


約一年振りに ステーンの工房を訪れました。
そこにはいつものようにかごを編んでいる姿
ドア越しに覗いた時、感動しました。

戸を開けるとあたたかく迎えてくれ
再会を喜んでくれて 固い握手。 

職人の手というのは大きくてあたたかいです。





昨年の今頃、『世界手芸紀行』という本へ寄稿するため、
スウェーデンでspånkorg(スポーンコリ)と呼ばれているかごを作る
ステーン・カーンズのもとへ取材に伺いました。

初めての取材と執筆。
初めてお会いしたステーンは
その時もあたたかく迎えて下さいました。

本の発売は今年の一月末。
ずっとお渡ししていないのが気がかりでしたが
ようやく任務を果たせました。




ステーンは80歳。
この日も朝6時から夕方前まで作業をされていました。
平日はかご作り。週末になると、
この時季は仲間たちと森へ入り狩りをしているそうです。

そんなステーンも昨年の暮れに病に倒れ
ヘリコプターで緊急搬送され、
生存率50%を生き伸び
無事に退院されたそうです。



大病後、かご作りを再開しようとしても、
後遺症から簡単な計算も、文字を書くこともできにくくなってしまい
ストレスにならないようにゆっくりと作業をして
自然とリハビリしていったそうです。



2012年にスウェーデン手工芸協会は百周年を迎えました。
その際に、手工芸の各分野でマスター手工芸家を選出。
わずか8名しか選ばれなかったなかで
ステーンも選ばれました。

こんな名誉なことを、昨年の取材時に私は知りませんでした。
もう執筆を終えてしばらくしてから知り、
自分の下調べの甘さを反省しました。

「なんで去年の取材の時に教えてくれなかったの?」

冗談まじりに聞いてみると、ステーンは笑っていました。
職人としての腕はいわばスウェーデン随一
それでいて謙虚な姿勢は人としても尊敬します。

大きな病から再スタートした職人としての第二章。
スポーンコリ職人として再び働けるのか
自分自身を試すために、ステーンは
ずっと作ってみたかったものを作ることに決めたそうです。




それはkuntクントという背負いかごです。
ご自身も狩りに出掛けるときはクントを背負って行くそうです。

クントはクントでも、
機内持ち込みサイズをいつか作ってみたいと
昨年の取材時も話して下さいました。

簡単な計算もできなくなっていたので
娘さんに手伝ってもらい、
いくつもあるパーツを正しい長さと太さにそろえ、
見事に編み上げたのです。

もしかしたら完成させられないかもしれない
と 途中で思ったそうです。
でも そこはやはり、長年の経験があってこそ
機内持ち込みサイズという定められたサイズに
おさめることができたのでしょう。

蓋の持ち手は木ではなく革を使用し
使ってないときは平に収めることができる作りに。
飛行機を待っている間なども椅子としても座れるように工夫。
この世に一つしかない、
ステーンが作った機内持ち込みサイズのクント。
職人認定試験さながら、ご自身で課した課題をクリアされ
スポーンコリ作りを続けていく自信にもなったそうです。

その話を終えると、

「このクントは君にプレゼントするよ」

と。このクントを作った時からわたしに贈ろうと
思ってくれていたそうです。

わたしは泣いてしまいました。

こんなに大切なクントを私がいただいていいのだろうか。
どれだけの想いで
どれだけの時間を費やして
苦労しながら編み上げたのかを思うと
胸が熱くなりました。

ステーン、ありがとう

次に飛行機に乗るときは
このクントを背負って行きたいと思います。




ステーンからクントを頂いたことで
心の中で一つの決心ができました。
それはこのクントと、買付け中に見付けた
小さなクントだけを一生手元に残して
お家の中にたんまりある他のクントたちを
送り出していこう、と。

その小さなクントは一枚目の写真の右と
4つ並んだクントのいちばん右に写っています。

買付け中に出会った珍しいスポーンコリを
ステーンにお見せしたくていくつか持って行きました。
この小さなクントを出すと、

見覚えがあるなぁ
これはどこで見付けたの?

と聞かれたのです。
見付けたのはストックホルムでしたが
ヴェステロースという街からのものだと聞いていたので
それを伝えると、作ったのは何とステーンだったのです。

ヴェステロースに引っ越した同郷の友人に頼まれて作ったのだそう。

自分が作ったものは
自分の子供みたいなものだから
覚えているんだよね、と。

こうして、後からものに込められた物語を知ることができ、
ステーンが作ったこの小さなクントも
一生大切にしていこうと決めました。

今まではスウェーデンに住み続けられるか分からなかったので、
ものを増やさないように気をつけてきました。
日本へ戻りなさいと、いつ移民局から言われるのではないかと
びくびくしながら過ごしてきました。

スウェーデンに渡って5年。
無事に永住権も取得出来たので
これからは探し出したアンティークを
自分のためにも取っておいてもいいのではないかと
思うようになりました。



そうこうしているうちに
我が家はかごの山。

5年近く買付けの仕事をしているので
出会った珍しいものがどれだけ貴重なものか分かってくるようになり
二度と出会えないかもしれないと思うと、手放せなくなっていったのです。
しかし、さすがに必要以上持っているのと
ステーンから頂いた絶対的な存在のクントがあるので
他のかごたちは、ほかに大切にして下さる方の元へ
送り出して行こうと決心できました。

ステーンとの想い出があるこのクントは
私にとって ’もの以上のもの’ なのです。
そういう特別なものを一つ二つ持っていれば
他にいくつも持たなくてもお腹いっぱいになれるのです。




Aboutのページにも書いているように、
もの以上のもの というのが
この活動をしている中で私の核です。

身の回りにあるものの一つでも多くが
そうであったらと願いながら
自分にできることは何かを模索しています。

今までは、
もの以上のもの、
もの以上のものへと育んでいけるもの
を探し集めて、販売してきました。

そんな折り、執筆の経験がなかった私に
『世界手芸紀行』へ寄稿させていただける
機会を与えて下さったのは、
編集をされた春日一枝さんです。

自分の考えを文章にし、
本 という形になったことで
今までとは違った世界との関わり方に出会いました。
古いものを買付けて販売しているのとは
また違った反応を頂けたことがとても新鮮でした。

読んで下さった方がうれしそうに感想を聞かせてくれたこと。
今までの暮らしの中でそういったことが皆無だった私には
生きたことのない世界へワープした感覚でした。

そして、ある日、本を読まれたという
スウェーデン在住の日本人女性からご連絡をいただいたのです。
その方はなんと、本の第一章に寄稿されている
ilo itooさんたちの高校の後輩なんだそう。

高校の先輩の寄稿した本を読み進めていると
同じくスウェーデン在住の私が載っていました。
スウェーデンに住んでいる日本人で
こういう人がいるのだと興味を持ってくれて、
メールまでしてくださったのです。
そして、さらには、私が暮らすレクサンドにまで
遊びに来てくれました。

本に寄稿させていただけたおかげで
普通に暮らしていたら出会えなかったはずの方に会えたり、
今まで言われたこともないようなうれしい言葉を頂けたり。

本がもたらす影響の大きさに驚いています。

わたしは老後もこの本を何度も読み返すと思います。
そして、本を読んで下さったかたから頂いた
うれしい言葉も忘れたくないので、
許可をいただき ここにいくつか書き残しておきたいと思います。



友人の齊藤槙さんは絵本作家です。
まきさんからは、

ー・ー・ー

本て自分がしらないところへ、
自分の分身を届けてくれるからすごく不思議な気がするよね。

ゆきこさんのページ、じっくり読みました。
丁寧に取材したことと、モノへの愛情が伝わる素晴らしいページでした。
この本がたくさんの人の元で、幸せをもたらしますように。


ー・ー・ー


絵本を何冊も出されている槙さんだからこそ
本が自分の分身だと知っていたのです。

自分で書いた文章が自分の分身だからか
発売されてから時間が経っても
本を読んだ感想をいただくこともあります。

文字として残っていることで、自分の分身が
読んだ方の心へ届いていくことがあるのなら
こんなにうれしいことはありません。





お客様のWさん
この白鳥の絵はオンラインショップで初めてお買い物して下さった後に
ご自身で描き、送って下さいました。


ー・ー・ー

お知らせを聞いてから2ヶ月間、
心待ちにしていた世界手芸紀行が届きました。
ドキドキしながら本を開きました。
それは、お店を始めてまもなくのSkantiqueさんに出会った時の気持ちと同じように…
一晩中、夢中になって、スウェーデンのアンティークの紹介を読んでいたことを今でも忘れません。

この本の文章に綴られた意思は、いつもひた向きで、努力を惜しまず、
美しいものに心を込めて紹介される由貴子さんの姿そのものでした。

ー・ー・ー

オンラインショップから始まったスカンティークですが
年に2,3回日本で展示会を開催しています。
初めて開催した時に、初日いちばんにいらっしゃったのがWさんでした。
こうしてあたたかい言葉を掛けて下さるお客様に支えられて
続けられていることに感謝しています。




北海道は美瑛に暮らすスイノカゴさん
彼女のお店にはスカンティークの商品も置かせて頂いています。
また、二人で『百年の記憶』という展示会を開催し、巡回展もしています。


ー・ー・ー

一文字一文字、由貴子さんの言葉を噛み締め、
写真と文章と構成と、素晴らしい記事を拝見する事ができてとても嬉しい気持ちでいます。
また、こんなに大切な文章の限られた文字数の中に
スイノカゴの名前まで出していただきまして恐縮です。
いつもお気遣い頂き、ありがとうございます。
ありがとうございますの言葉では足りないくらいです。

あぁ なんて素敵な内容でしょう。

文章も然り、由貴子さんの写真も素晴らしいです。
ステーンとの距離が近いのも由貴子さんのコミュニケーションの取り方が上手だからですよね… 
スポーンコリの作り方の写真も、日本では当然目にする事ができない光景に拝んでいます。
それもいいポイントをおさえて撮っていること!
職人にとっては嬉しい写真だと思いますよ。
構図も最高です。

この本は娘にも勿論、ずっと語り継ぐ一冊にしていきたいと思います。

ー・ー・ー


スイノカゴさんご自身も 白樺のかごを編まれる作家さんです。
作り手の立場からも、また元カメラマンという視点からも
感想を頂きました。

約三年前、お店を始めるにあたって、
商品紹介の文章を書くことと
写真を撮ることが大きなネックでした。
どちらもまったく自信がなく、
お店を始めること自体を躊躇していたくらいです。

それがこうしていい反応をいただけて
とてもうれしかったです。



料理家の友人 星谷菜々さん

ー・ー・ー

スポーンコリ取材、お疲れさまでした。
一番にゆきこさんのページを読みました。

とってもかっこいい職人さんとミュージアムみたいな工房
スポーンコリのプロセスカットまで、貴重すぎます。
木を割るところから始まるとはすごいですね。
作られる背景を知ると、物語と感じて、
もう生き物のように思えてきますね。

前々から思っていたことで、
ゆきこさんから買わせていただいたものたちに触れていると
ただ「かわいいものもってます」なんてものではない、
物語の続きを托されたような神妙な気持ちになっていました。

それはゆきこさんが真心込めて買い付けて
送り出しているからなんだ、と合点がいきました。
センスのいいアンティークのディーラーさんはたくさんいらっしゃるけれど、
ゆきこさんの世界は他のだれにも真似できない、ゆきこさんの人生そのもの。
物から滲み出る、歴史とゆきこさんの真心が、ファンの方を惹き付けて止まないのだなと、思いました。
もちろん私もそのファンのひとりです。
本当にすてきなページでした。
たくさんの方に読んでいただきたいですね。


ー・ー・ー


菜々さんも何冊も本を出されています。
なるほど、プロセスカットに着目されるのだと関心しました。
菜々さんはものごとの背景を深く汲み取られる方で
詩人のようでもあります。
一つの言葉、一つのものからも
わたしの人生と重ね合わせてくれたことが
特にうれしかったです。




SUNNY CLOUDY RAINYの香奈子さん

東京の蔵前にお店をかまえています。

何度も展示会を開催させて頂いたり
企画展に参加させて頂いています。
『世界手芸紀行』のインタビューベージでは
お店で開催した展示会の様子も掲載されています。
そして、本の発売に合わせてミニフェアも開催してくださいました。

香奈子さんの丁寧な接客と紹介のおかげで
たくさんのスポーンコリを旅立たせてくれました。
その後も何度か追加でお届けしています。
直接スポーンコリをご覧になられたい方は
ぜひ足を運ばれてみて下さい。

HPより抜粋です。


ー・ー・ー


まっすぐな彼女が集めるものは、そのどれもがきらきらしていて、
次の人の手に渡るのを今か今かと待っているかのよう。
遠く北欧で親しみ使われてきたアンティークが、彼女の手を通して日本の生活の中へ。
生活の中に違和感なくすっと馴染むのは、彼女の持つセンスと日本で暮らした経験があってこそなのだと思います。

ー・ー・ー






『世界手芸紀行』の編集をされた 春日一枝さん
一枝さんとは星谷菜々さんを介して出会いました。
その時に声を掛けて頂いたおかげで
今回の寄稿が実現しました。

膨大なメールでのやりとりを的確で丁寧に対応して下さり
とても信頼してお仕事ができました。

ー・ー・ー

原稿ありがとうございます。
とてもいいです。

まるで、この原稿のエンディングのために
待っていてくれたみたいですね。
このスポーンコリのおかげで、原稿全体が物語のようになりました。

由貴子さんが、人から人へ、スポーンコリやそのほかのものたちを
つないでいく役目を担っていることもよくわかります。

そして、写真の美しさにしびれます。
大家のおばあちゃんと由貴子さんのつないだ手に
じーん としました。

今回の書籍、サブタイトルが「手仕事をつなぐ女性たち」なんです。

写真、どれも良すぎて選ぶの悩んでしまいます。

素晴らしい原稿をありがとうございました。
本当に由貴子さんにお願いしてよかったです。

ー・ー・ー





最後まで読んで下さり
ありがとうございます。


Skantique
松崎由貴子